いま、伊豆に居ます。ほぼ波の音を聞きながら、東京ではしない仕事をしています。
たまには出かけてみようと乗ったバスのアナウンスで「印象派の絵画と仏像の・・・」が耳に入りました。とっさにバス停付近の美術館をGoogleMapで探しました。
下田市にある『上原美術館』・・・大正製薬創業者の上原さんの個人的コレクションが美術館になっています。山間の坂道を登ったところにひっそりと、しかも手入れの行き届いた庭を行き着くと、まるで社長秘書室に入ったかのように、受付の方が迎えてくださいました。
私は事前にネットで、ルドンの「生け花」を見たので、それが目的でこの坂を登ってきたのでした。
しかし、思わず目を疑ったのはパブロ・ピカソの「科学と慈愛」でした。
しかも、小さい。
本物はバルセロナにあるとのことでしたが、私は、そのレプリカ?をスペイン南の港町マラガで見た記憶が甦ってきました。もっと大きくて、胸に迫る絵です。
ピカソが15歳の時に描いた作品で、往年のピカソのものではなく、写実的な絵です。
病でベッドに横たわる母親を、右側で医者が脈を測り、左側で修道女が水を与えようとしています。その修道女の腕には子供が抱かれていて、心配そうに母親を覗いています。
私は、その子供がピカソ自身だと感じますし、自らの過去とも重なり、胸に苦しいものを強く感じました。
マラガに行ったのは、或るモンテッソーリスクールの面接のためです。
何度かメールのやりとりをして、ようやく最終面接を現地で受けることになったのです。
「折角いらっしゃるので、ランチを一緒にいかがですか?」という最後の一文を見て、私が当時部屋を借りていたコルドバの友達が、全員で「必勝」と書いたハチマキをして応援してくれました。「ランチに誘うってことは、マサノリ、もうWelcomeよ!」
スペイン人がそう言うものだから、その気になって、40°Cくらいの気温でしたが、勝負ネクタイにスーツ姿で行きました。
結果ですか?
良かったら、東京モンテッソーリスクールは無かったでしょう? おまけにランチもなし。
Malagaは海辺にある素敵な街です。
永住権があるなら、人生の最後にはここに住みたいと思った土地です。
そうです。スケールは違いますが、この下田に似た雰囲気があるかもしれません。
絵に戻りましょう。
その大きな絵を描く前の、習作(練習のために描いた作品)が、この伊豆下田の山奥の美術館に飾られていたのです。
そして、病床の母の目は鋭く息子に注がれ、明らかに本物よりも悲しそうに泣いています。
その習作の表情と違い、本作で母の顔を美しく仕上げた15歳のピカソに去来する、科学と慈愛の狭間が胸を打ちます。しかも、それがスペイン(バルセロナ:ピカソ美術館)と、この伊豆に分かれている事に触れ、「上原さん、何てことしてくれたん」という感動を得ました。
同じ場所に、ずっと変わらず住み続けたら、外の世界は別のものです。しかし、外に出ると、出ただけのゴミさえも、拾うことになります。
東京モンテッソーリスクールの子供たちが、将来外に出て、何を感じて何を想うのでしょう?
楽しみでしかありません。
だから言ってるでしょう?
「勉強しろ!」って。
毎日毎日、心を鍛える勉強ですよ。
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